(出典:Investor's Business Daily)
先日、ヘルスケアセクターの高配当株はアッヴィ(NYSE: ABBV)がおすすめだと紹介しました。
高配当株を探しているならヘルスケアの一択!今後増配も期待できるおすすめ銘柄3選(米国株)
アッヴィ(NYSE: ABBV)は超大手、投資家から人気も高い銘柄です。個人的には人気が高い株は投資対象としてあまり宜しくないと思うのですが、高配当株としては大型株も悪くない(それでも人気が高いと株価が落ちるのが怖い)と思い、今回銘柄分析を行ってみました。
アッヴィの銘柄分析はネット上に多くあるので、そういった他のネット記事には無い情報、決算書原文の内容や市場データ等、私ならではの切り口で皆様の参考になる情報をお届け出来ればと思います。
ではさっそくいってみましょう!
目次
アッヴィの企業概要、事業内容(単純事業)
(出典:labonline.com.au)
アッヴィは2013年にアボットという超大手製薬会社からスピンオフして生まれた製薬会社です。アボットが親ということになりますが、2021年10月現在は子であるアッヴィの方が売上が大きく、親よりも子の方が大きくなっている状況です。
アッヴィの代表的な医薬品はHumiraです。Humiraは関節リウマチ(関節に炎症が起こる病気)治療剤で、2020年に世界で一番売れた医薬品です(参照:FIERCE)。
アッヴィは2020年にアラガンというボトックス(美容で顔に注射するやつ)を取り扱う製薬会社を買収し、美容のみならず、免疫や癌関連、神経関連、眼科や婦人科関連の医薬品のラインナップを強化しました。
世界最大級の製薬会社なので取り扱っている医薬品の幅は非常に広いですが、医薬品以外には取り扱っておらず、投資家にとって事業複雑化、多角化によるリスクが少ない銘柄だと言えます。
関節リウマチ治療剤の需要(社会需要)
手ごろなグラフが見つからなかったのですが、関節リウマチ治療剤の全世界売上は2019年に629億ドル、今後毎年2.8%成長していくという予想です(参照:Allied Market Research)。
関節リウマチに限らずの話しですが、単純に人口が増えていますし、寿命がどんどん長くなっているので、関節リウマチの患者数も増加する筈です。
データが無いので憶測になりますが、関節リウマチ治療薬は爆発的に需要が増えるものでは無いものの、市場規模はじわじわ大きくなっていると言えるでしょう。少なくとも急に需要が無くなることは無いです。
製薬業界構造(競争要因)
製薬業界について5フォース分析をしてみましょう。
(出典:BizVibe)
先ず直接の競合は他の製薬会社でしょう。上記は製薬会社トップ10になります。ジョンソンエンドジョンソンがトップ、ファイザーが3位、アッヴィは9位です。11位以降にも製薬会社がずらりと並ぶので、企業の数は多く、競合間の競争は激しいと言えます。
次は顧客との力関係です。アッヴィの顧客は病院やクリニック、薬局等、医療関係者になります。Humiraが世界No.1ではありますが、関節リウマチ治療剤は他にも種々あるらしいので、病院にとってみれば、Humiraは選択肢の1つに過ぎません。従って、アッヴィの顧客に対する交渉力はそこまで強くない筈です。
仕入先との力関係ですが、アッヴィの仕入れ先は医薬品原料等のメーカーと、製造を一部委託しているので医薬品製造を行う企業も仕入先になります。アッヴィは世界トップクラスの製薬会社です、赤子の手をひねるが如く簡単に仕入先を替えられるでしょう。
代替品の脅威について関節リウマチを例に考えると、薬物療法以外には手術やリハビリがあります(参照:中外製薬)。憶測にはなりますが、何れのケースでも医薬品を全く使わないということはあり得ない筈ですので、関節リウマチ治療剤の完全な代替品は無さそうです。
新規参入者について、どれくらいニューカマーが多いのか、IPOの企業数が目安になりそうなので見てみましょう。2021年にIPOを予定している銘柄一覧を見ると、結構多くの医薬品会社が名を連ねており、新規参入が多そうです。
上記を纏めると、製薬業界の競争はかなり激しいと予想されます。製薬業界はいち早く莫大な資金を研究開発に投じて、素早く製品化、特許を取得して競合を排除することが鍵になり、その点では資本力がある大企業が優位であると言えます。スピード感が求められる業界なので、日本がアメリカに遅れているのも納得です。
アッヴィは顧客を独占しているか(独占力)
(出典:Seeking Alpha)
少し古いデータですが、上記は関節リウマチ治療剤のシェアです。Humiraは33%のシェアを握っています。アッヴィが市場を独占という感じではなく、競合もそれなりに健闘している状況ですね。アッヴィが取り扱っているのは関節リウマチ治療剤だけでは無いですが、上記を見る限りアッヴィの消費者独占力はそこまで強くないでしょう。
これは別にアッヴィの企業力がしょぼいという訳では無く、よほど需要が無い医薬品で無い限りは、特定の医薬品を1つのメーカーが独占しているケースは少ないからです。患者さんからしたら、特定の病気についてメーカーが1社だけだと供給が頼りなさ過ぎて恐ろしいです、命の危険だってあるんですから、複数の供給先を確保することは医薬品業界の義務と言っても良いでしょう。
アッヴィに似た事業を他社が始めるか(参入障壁)
一般論として製薬は高度な知識を持つ研究者や医師、特許のエキスパート等の人材が必要な他、製造設備、研究開発の資金、製造許認可等、参入障壁は高いです。
一方、既述の通り新規参入が多く、同じような医薬品を複数の企業が挙って開発、競争している業界です。全く一緒では無いですが、アッヴィに似た事業を行っている製薬会社は複数あるでしょう。
アッヴィの株価と業績に不一致があるか(株価)
(出典:macrotrends)
上記のグラフは、一番上から株価、EPS(一株当たり利益。これを業績と考えて頂いて問題無いです)、PER(株価収益率。これが高ければ割高、低ければ割安と分かる指標)の順に並んでいます。 直近1年で少しEPSが落ち込んでいるのに対し、株価は寧ろ上がっているのであまりお買い得感は無く、業績の割には株価が高い印象です。
アッヴィは割安か(割安度)
(参照:Yahoo!ファイナンス)
上記はアッヴィの各株価指標ですが、割安かどうかを示す指標であるPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)は何れも業界平均より高く(参照:gurufocus)、アッヴィは割高だと言えます。
アッヴィは配当を出しているか(配当)
(出典:macrotrends)
上記は上から順にアッヴィの株価、配当金、配当利回りです。2014年から増配を続けており、配当も5%弱と非常に高く、高配当株として魅力的な株だと言えます。
アッヴィの決算内容
アッヴィの決算内容(2020年年次報告書)を一言で表すと、「医薬品の売上は順調だけど、養子に迎え入れたアラガンが足を引っ張って運動成績(純利益)は去年の記録を更新できず!ダイエットをしてなんとか体脂肪率(自己資本比率)は改善したけど、まだまだ脂肪が多すぎて次の健康診断もヤバい!筋トレ(投資)と献血(借入金返済)で大出血して顔色が悪くなる(現金残高減少)」という感じです。
ポイント1
(出典:2020年年次報告書)
損益計算書で注目したいのは営業経費です。Skyriziという乾癬の治療薬、RinvoqやHumira等の関節リウマチの治療薬、 Imbruvicaという抗がん剤、Venclextaという白血病の薬が伸びて売上が前年比38%増加していますが、営業経費がかなり増えており、税前利益が寧ろ去年よりも下がっています。
営業経費でも特に売上原価が大きく増加し、粗利率が下がってしまっていますが、これは無形資産の減価償却費の増加、アラガン買収に関する在庫の会計上の評価に伴う調整によるものです。一般的には買収後は利益率が下がる傾向があり、今回のケースでは製造コストが増加してコスト体質になったわけでは無いので、そこまで心配する必要はありません。
ポイント2
(出典:2020年年次報告書)
賃借対照表では純資産に注目です。驚きましたが、2019年は債務超過(負債が資産を上回っている)だったんですね。調べたところ、2018年に債務超過に転落したそうです。2020年には財務が改善され、純資産もプラスに戻っていますが、今後また債務超過に陥らないかは要注意です。自己資本比率が改善されて8%になっていますが、まだまだ非常に低い水準で安心できません。
ポイント3
(出典:2020年年次報告書)
キャッシュフロー計算書は投資キャッシュフローに注目です。投資キャッシュフローのマイナスが非常に大きいですが、これはアラガンの買収に使われたものです。通常、キャッシュを投資で使ってフリーキャッシュフローがマイナスになったら、財務キャッシュフローでカバーするところですが、アッヴィはこれ以上財務を悪化させられないので、借入の返済や配当金の配布で財務キャッシュフローもマイナスになり、期末の現金残高が減っています。
今後は投資を控えて、借入金を返済しつつ少しずつキャッシュを蓄えてくれれば良いのですが、今後もどんどんキャッシュを使ってしまうと確実に底をつくので注意が必要です。
アッヴィは今後大きくなるか?(成長性)
ではアッヴィの成長性を評価していきましょう。
既述の通り、2020年は増収減益でまずますの結果でした。
最新決算(2021年2Q)では前期と異なって確り黒字となっています。主力のHumiraを含む免疫関連の医薬品の売上が確り伸びて好決算となりました。
(出典:reuters)
上記業績予想の通り、2021年は増収増益の予想です。1Q、2Qの業績は順調で、今のところは予想通りに進んでいます。
上記を纏めると、やや安定性に欠け、特に2020年はアラガンの買収に関連して利益が落ち込みましたが、2021年は過去の記録を更新する決算になると期待されており、アッヴィの成長ポテンシャルは低くないと言えます。
アッヴィは儲かっているか?(収益性)
アッヴィの収益性をチェックしていきましょう。
利益がどれくらい高いのかが分かる指標、売上高純利益率は10%で、だいたい業界平均と同じくらいです(参照:csi market)。
資産をどれくらい効率的に使えたかという指標、ROA(総資産利益率)=3%で、これも業界平均レベルです(参照:csi market)。
ROAと似た指標の、ROE(自己資本利益率)=35%で、これは業界平均を遥かに上回っています。但し、アッヴィは債務超過だったことがあり、企業規模に比べて純資産が少なすぎることに注意して下さい。
上記より、アッヴィの収益性は普通のレベルです。
アッヴィは倒産しないか?(安全性)
最後にアッヴィの安全性をチェックしましょう。
短期的な資金繰りの安全性を示す流動比率は84%で、基準となる100%を下回っています。アッヴィは買掛金が多いですが、その割に現金と売掛金が少ないですね。
自己資本比率は既述の通り8%と、下限の30%を下回っています。今まで債務超過で、単純に資産に対して負債がまだまだ多すぎます。利益余剰金があまり増えていないのも良くありません。
キャッシュフローについては既述の通り、営業キャッシュフローが増えていますが、投資キャッシュフローと財務キャッシュフローのマイナスが上回ってしまい、現金及び現金同等物残高が減っています。最悪な資金繰りでは無いですが、このままだと現金が底をつきますね。
(出典:2020年年次報告書)
アッヴィは高配当狙いなので、財務キャッシュフローをもう少し詳しく見ましょう。上記の通り、財務キャッシュフローのうち、配当金が半分以上を占めています。他にキャッシュの使い道が無い企業なら問題無いのですが、アッヴィは負債が非常に多く、借入金返済にもっとキャッシュを使って財務体質を改善したいところです。更には、2018年には多額の自己株買いを行っています。今後も自己株買いが復活すると非常にマズいですね、そんな余裕は無い筈です。兎に角、アッヴィにとって配当金支払いはかなりの重しで、長年増配を続けていますが、今のままだといつ増配をストップするか分かりませんし、再度債務超過に陥れば配当金無しになる可能性もありそうです。
上記を纏めると、アッヴィの安全性は非常に低いと言えます。
アッヴィの総評
以下は私個人が行った銘柄評価で、特定の企業や従業員、株主を攻撃する目的はありません。又、各銘柄について絶対的に正しい評価を議論するものでも無い為、私個人の銘柄評価に対する非難や誹謗中傷、嫌がらせはお止め下さい。
さて、しーおががの銘柄評価基準に照らし合わせた、アッヴィの総合評価は68点です。
高配当株として非常に期待していたのですが、財務体質がとんでもなく悪かったのでビックリしました。高配当株に対して、私はキャッシュフローを最重要視しておりまして、将来的にキャッシュフローに余裕が無くなり、配当金が出せなくなるかもしれない財務諸表を見てしまうと、この株をずっと持ってて大丈夫かと不安になってしまいます。
アッヴィに投資するかどうか、財務体質が改善する迄は「投資しない」というのが私個人の判断です。業績の割には株価も高いですからね、今は焦ってアッヴィに投資しなくても良さそうです。
以上、「高配当狙いならアッヴィの株を買うべきか!?ABBVの銘柄分析」でした。
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