(出典:DRUG Delivery)
先日のブログ記事で、私が次に狙っている銘柄はバイオデリバリー・サイエンシズ・インターナショナル(NASDAQ: BDSI)だと紹介しました。
恐らく誰も知らない銘柄ですが、業績の伸び、割安度で絞って残った数少ない有望な銘柄の一つでした。
勿論、決算書も確り読んで調べたので、今回はその結果を皆さんにも共有したいと思います。
ではさっそくいってみましょう!
目次
バイオデリバリー・サイエンシズ・インターナショナルの企業概要、事業内容(単純事業)
公式HPより、バイオデリバリーは慢性疼痛等の薬を製造する製薬会社で、1997年にインディアナ州で生まれた企業です。2019年にナスダックに上場しています。
代表的な医薬品はBELBUCAという慢性疼痛の治療薬、SYMPROICというオピオイド誘発性便秘の治療薬です。
正直、医薬品は私にとって全くの専門外ですが、バイオデリバリーは慢性疼痛にフォーカスした製薬会社で、事業内容はシンプルで投資家にとって事業多角化のリスクは少ない銘柄だと言えます。
鎮痛薬の市場規模(社会需要)
(出典:statista)
上記はアメリカでの鎮痛薬の市場規模です。成長速度はそこまで高くないですが、着実に市場は成長しています。今後も需要は続きそうです。
製薬の業界構造(競争要因、参入障壁)
製薬業界について5フォース分析をしてみましょう。
先ず直接の競合について、バイオデリバリーの主力であるBelbucaの競合品はButrans、あとはスケジュールⅡのオピオイド(9種類くらい)です。ジェネリックもあります。何百社というほどではありませんが、競合の数はそれなりに多いです。
次は顧客との力関係です。バイオデリバリーの顧客は病院やクリニック、薬局等、医療関係者になります。よほど特殊な医薬品であれば別ですが、基本的に医薬品メーカーは他にもいるので、病院にとってみれば、バイオデリバリーは選択肢の1つに過ぎません。従って、バイオデリバリーの顧客に対する交渉力は強くないと言えます。
仕入先との力関係はどうでしょうか。バイオデリバリーの仕入れ先は医薬品原料等のメーカーと、製造を一部委託しているので医薬品製造を行う企業も仕入先になります。バイオデリバリーが製造している医薬品は種類が限定されており、結果として製造委託先や原料メーカーも数社に絞られます。仕入先とは一蓮托生、持ちつ持たれつの関係なので、仕入先に対するバイオデリバリーの交渉力は普通と言えるでしょう。
代替商品の脅威について、野生動物のように病気に掛かってそのまま死ぬならともかく、人間は生きる為に病気と闘うので薬は欠かせないものですし、いくら健康に気を使っても、全く薬を使わないのはほぼ不可能でしょう。現時点では代替サービスの脅威は無さそうです。
新規参入者について、どれくらいニューカマーが多いのか、IPOの企業数が目安になりそうなので見てみましょう。2021年にIPOを予定している銘柄一覧を見ると、結構多くの医薬品会社が名を連ねています。IT(ソフト)ほどでは無いですが、医薬品は新規参入が多そうです。只、医薬品開発には莫大な開発費用が掛かりますし、研究設備も必要で、おまけに自前で製造するとなると設備投資まで必要です。医療・化学に関する高度な知識を有する人材も必要になります。人、モノ、金が必要で、他の業界と比較すると参入障壁はかなり高いと言えます。
競合の強さと市場シェア(競合)
私の試算では、バイオデリバリー(Belbuca)のマーケットシェアは1%以下です(参照:Mordor Intelligence)。市場を独占するには程遠いですね。
オピオイドを製造している製薬会社に超大企業は無く、マーケットリーダーと言えるような市場を独占している製薬会社はいないようです。
オピオイドを製造している製薬会社、ジェネリックも含め複数のプレイヤーが入り乱れて混戦状態の市場です。バイオデリバリーを含め、どの製薬会社が市場を独占してもおかしくありません。
業界構造や需要にマッチした戦略(経営戦略)
バイオデリバリーの経営戦略が上手くマッチして市場シェアの獲得に繋がっているかを分析してみましょう。
バイオデリバリーが取っている戦略はバリバリの集中戦略、「差別化集中戦略」と言えそうです。
バイオデリバリーは慢性疼痛に特化しています。主力の医薬品であるBELBUCAは、他の鎮痛剤と異なって効能が長時間続き、効き目も強く、慢性疼痛が特に酷い患者に適しています。
オピオイドを取り扱っている製薬会社は多いので、競争に勝ち残る為には競合と直接対決は避けた方が賢明でしょうし、慢性疼痛の患者は増えてきていることから、特定の患者にターゲットを絞った方が、少ない経営資源を集中させることが出来ます。
今後どうなるか分かりませんが、バイオデリバリーの差別化集中戦略は今のところは現状にマッチしているように見えます。
バイオデリバリーの決算内容
バイオデリバリーの決算内容を一言で表すと、「主力医薬品が漸く売上を伸ばして運動成績(純利益)も落第点をクリア、自分で作った血液量(営業キャッシュフローのプラス)でも十分健康にも関わらず、輸血(財務キャッシュフローのプラス)で更に血液量(=現金残高)が増加して、エネルギー十分の万全体制」という感じです。
下記(3つのポイントの後)に財務諸表があるので、詳細を確認されたい方はそちらをご覧ください。
ポイント1
先ず注目すべきは損益計算書(Consolidated statements of operation)の営業利益(Operating lncome)です。2020年は増収増益で初の黒字化ですが、主にBELBUCAの売上が伸びたことと、SYMPROICを取得したこと(Shionogiという会社と契約を結んでSYMPROICのライセンスを獲得しました)が主な要因です。売上原価(Cost of sales )や営業経費(Total Expenses)がさほど増えていませんが、医薬品はよほど供給量が多くならない限りは製造費用が一定だからでしょう。
ポイント2
次に注目すべきは賃借対照表(Consolidated Statements of Financial Position)の純資産(Total equity)です。資産総額(Total equity and liabilities)が増加していますが、純資産でも特に累積赤字(Accumulated deficit)が減っており、確実に成長していることが見て取れます。
ポイント3
最後に注目すべきはキャッシュフロー計算書(Consolidated statement of cashflow)の財務キャッシュフロー(Net cash flows provided by Financing Activities)です。営業キャッシュフロー(Net cash flows provided by operating activities)が大きく増えており、今期は追加でキャッシュは必要なかった筈ですが、更に借り入れを行って現金残高(Cash and Cash Equivalent at end of year)が大幅に増えています。2019年に医薬品を取得するためにお金を使ったので、今後もBELBUCA、SYMPROICに続く医薬品を獲得する為に現金を準備しているのかもしれません。
財務諸表
(出典:バイオデリバリー年次報告書)
バイオデリバリーの利幅は大きいか?(収益性)
バイオデリバリーの収益性をチェックしていきましょう。
(出典:macrotrends)
先ず資本金に対してどれくらい効率的に収益を上げているかを示す、ROE(自己資本利益率)という指標を見ますが、上記の通り(青線がバイオデリバリー)ROEは大きく下振れした時期がありますが、現在は27%前後です。
競合と比較すると、イーライリリー(LLY)やアッヴィ(ABBV)は異常な迄にROEが高いですが、それらを除けばバイオデリバリーのROEは平均的なレベルで悪くありません。
(出典:macrotrends)
次に、ROEと似ていますが、より忠実にお金を儲ける力を示す指数、ROA(総資産利益率)を見ると、上記の通り(青線がバイオデリバリー)ROAがマイナスになって赤字の期間が多かったですが、現在は12%強です。
競合と比較すると、バイオデリバリーのROAは競合よりも高くトップクラスであることが分かります。
(出典:macrotrends)
最後に、利益がどれくらい高いのかが分かる指標、売上高営業利益率を見ます。上記の通り(青線がバイオデリバリー)、バイオデリバリーの営業利益率は24%強です。
競合と利益率を比較すると、アッヴィ(ABBV)の利益率がかなり高く、バイオデリバリーは5社中3位です。
因みに、全体平均と収益性を比較してみると、S&P 500の売上高営業利益率は16.24%です(参照:csi market)。医薬品が承認されて売れ始めれば、製薬会社の収益性は株式市場全体平均よりかなり高くなることが分かります。
上記を纏めると、バイオデリバリーの収益性は平均的と言えます。
バイオデリバリーは効率的にお金を回しているか?(効率性)
バイオデリバリーがお金を効率的に回して儲かっているかを調べてみましょう。
効率性は総資産回転率という指標で見ます。財務諸表より、2019年の総資産回転率は0.60、2020年は0.65でした。
総資産回転率が向上しており、2020年に大きく売上を伸ばしているということです。
業界平均と比較してみましょう。農業機械業界の総資産回転率は0.37です(参考:csi market)。これと比較すると、バイオデリバリーの効率性はかなり高いことが分かります。
参考迄、S&P 500の総資産回転率の平均は0.26です(参考:csi market)。製薬会社は収益性も効率性も株式市場平均より高いということです。収益が安定すれば、株式市場平均よりも製薬業界の方が儲ける力が強いということですね。
上記より、バイオデリバリーの効率性は非常に高いです。
バイオデリバリーは今後大きくなるか?(成長性)
バイオデリバリーの成長性を評価していきましょう。
(出典:yahoo!finance)
上記はバイオデリバリーの予想売上高成長率です。2021年は5.7%、2022年は26.10%となっており、成長スピードが格段に上がっています。
2020年にかなり大きく売上が伸びたので、2021年は少し停滞する予想です。
2022年の成長率がかなり高いですが、バイオデリバリーは直近で他の製薬会社の買収を完了し、片頭痛の新薬を2022年から発売予定なので(参照:BDSI)、それが売上予想に織り込まれているんでしょう。あとはBelbucaに続く第2の柱として期待されているSymproicの成長も考慮されていると思います。やや高い成長率ではありますが、Symproicの売上の伸びを見れば不可能な数字では無いです。
競合と比較すると、イーライリリーの2022年売上高成長率が1.4%、ファイザーが6.4%、アッヴィが3.4%、ジョンソンエンドジョンソンが4%なので、バイオデリバリーの成長率の方が高いです。
上記を纏めると、バイオデリバリーの成長性は高いと言えるでしょう。
バイオデリバリーは倒産しないか?(安全性)
最後にバイオデリバリーの安全性をチェックしましょう。
賃借対照表より、短期的な資金繰りの安全性を示す流動比率=流動資産÷流動負債=138%で、100%を遥かに上回っています。
自己資本比率=純資産÷資産総額=45%と、下限の30%を上回っています。
次にキャッシュフロー計算書から見る安全性ですが、既述の通り営業キャッシュフローが大きくなり、投資キャッシュフローはほぼ0、しかし財務キャッシュフローがプラスで、現金が大きく増えています。投資をしたり、借入を返済しても良かったと思うので、資金繰りは最高の内容では無いですが、問題はありません。
上記を纏めると、バイオデリバリーの安全性はやや高いと言ったところです。
バイオデリバリーは割安か?(割安度)
バイオデリバリーが割安かどうかを判断する為に、PER(株価収益率)という割安度を示す指標を中心に、各種分析をしてみましょう。
バイオデリバリーの株価(パフォーマンス)
既述の通り、バイオデリバリーの収益性はまあまあ、売上高成長率は高かったので、そこそこ人気が集まって株価はそれなりな筈だと思いますが、実際はどうでしょう?
(出典:yahoo!finance)
上記はバイオデリバリーの株価(青色)です。5年間で66%と、競合5社と比較しても株価が冴えず、予想に反して振るわない結果となっていました。
バイオデリバリーの実力評価(PERと収益性、成長性)
次に割安度を示すPER(株価収益率)という指標が、その銘柄の実力に反して低いのかどうかを見ます。
(参照:yahoo!finance)
上記はPERと利益率(収益性)、成長率をプロットしたものです。
グラフの右に行くほど実力が高く、上にいくほど株式市場からの評価が高いことを意味します。青線より左上は割高、右下は割安ということです。
バイオデリバリーの株価は冴えませんでしたが、実力はまずまず、特に成長性は非常に高く、株式市場からの評価が低いように見受けられます。
バイオデリバリーの株価(割安度)の推移
(出典:macrotrends)
上記はバイオデリバリーのPERです(一番下のグラフ)。急にPERが上がると今は割高、逆に急に下がっていたら割安と判断できます。
ちょっとグラフが見にくいですが、バイオデリバリーは赤字の期間が多かったので、PERが0だったり、急激に上がったりしています。
直近ではPERが徐々に下がって、現在は9.70倍です。現時点では割安と判断できます。
バイオデリバリーの理論株価
バイオデリバリーの理論株価を超ざっくり計算してみましょう。
先に結論を述べると、理論株価は10.29ドル、2021年11月28日現在の株価は2.91ドルと理論株価の3分の1以下で、今の株価は割安だと言えます。
さて、理論株価の計算方法ですが、DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法を用いて計算しました。
本来は過去の財務諸表から、将来の財務諸表を厳密に計算しますが、ここでは
・今後10年分のフリーキャッシュフロー(営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを除いたもの)は、過去5年分のフリーキャッシュフロー(参照:reuters)から予想値をざっくり設定
・リスクフリーレート(リスク0の投資先の利回り)は米国10年国債(参照:marketwatch)
・ベータ(個別の株式のリスク)は株式市場で一般に公開されているデータ(参照:yahoo!finance)
・マーケットリスクプライム(投資家が株式に期待するリターン)はS&P 500の過去10年のリターンの平均値(参照:macrotrends)
・有利子負債資本コスト(企業が借りている借金の金利)やD/Eレシオ(負債と資本金の比率)は最新の決算書を参照
・永久成長率はアメリカの物価上昇率を参照(参照:TRADING ECONOMICS)
・月商3か月分を取っておく前提で余剰現預金を計算
・保有している固定資産(設備等)の20%は余剰投資資産と想定
という前提でざっくり計算しました。計算結果は下記の通りです。
結局バイオデリバリーは割安なのか?
上記の分析結果を見ると、バイオデリバリーは実力は悪くないですが、株価がかなり低い評価です。
基本的には市場が正しいと仮定して、何故理論株価と乖離があるのかを考察してみます。
先ず、ヘルスケアセクターはITに次ぐ人気の投資対象です。人気の銘柄がゴロゴロ転がるセクターで、バイオデリバリーの存在が霞んでいる可能性はあります。
中小企業が投資家から人気が無い可能性もあります。製薬会社は新薬開発にドカンとお金を使って、新薬をデビューさせて市場シェアを掴むのが基本です。研究開発の資金が少ない中小企業が不利なのは否めません。
バイオデリバリーの株の売買ボリュームが小さいことも影響していそうです。「流動性ディスカウント」と言うそうですが、売買ボリュームが小さい為に、機関投資家によってファンダメンタル(企業が生み出すキャッシュ等を評価した内容、指標等の情報)が正しく株価に反映されていない可能性があります。
バイオデリバリーのフリーキャッシュフローが安定していないことも要因の一つだと言えそうです。バイオデリバリーのフリーキャッシュフローが出始めたのは2020年からなので、投資家はバイオデリバリーの収益力が不安定だと考えているかもしれません。
上記より、理論株価との乖離が解消される条件は①機関投資家がバイオデリバリーに投資する、②バイオデリバリーが安定したキャッシュフローを決算で示す、の2つだと思います。
①については、残念ながら最新決算でヘッジファンドの保持量が減ってしまいましたので、少なくとも次の決算迄はヘッジファンドからの投資は増え無さそうです。
②について、Alvogenというジェネリックの懸念もあり売上が下方修正されている他、買収による投資キャッシュフローのマイナスが大きいですが、それでも最新決算次点でのフリーキャッシュフローは大きく、恐らく2021年4Qのキャッシュフローは悪くないと思います。
上記より、2021年度は株価の上昇が見込めず、2022年度の後半で好決算を示すことが出来れば、現在の株価から約50%程度の上昇が期待できそうです。
バイオデリバリーの配当金(配当)
バイオデリバリーは無配当で、将来的に配当を行う予定もありません。
無配当=お金が無いというわけでは無いので、ちゃんと収益が出ているかは財務諸表を見て判断しましょう。
バイオデリバリーの総評
以下は私個人が行った銘柄評価で、特定の企業や従業員、株主を攻撃する目的はありません。又、各銘柄について絶対的に正しい評価を議論するものでも無い為、私個人の銘柄評価に対する非難や誹謗中傷、嫌がらせはお止め下さい。
さて、しーおががの銘柄評価基準に照らし合わせた、バイオデリバリーの総合評価は85点です。やや伸びが鈍化していますが、成長度合いは悪くありません。収益性、財務体質も良いです。一番良いのは、取り扱っている医薬品は2種類と非常にシンプルで、それらの医薬品で確り市場に刺さりこんでいるところです。
バイオデリバリーに投資すべきかどうか、今は株価も落ち着いているので、私個人は「投資すべき」という判断です。
以上、「製薬業界の隠れた原石!?バイオデリバリー・サイエンシズ・インターナショナルの決算分析!」でした。
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