(出典:Questex LLC)
以前もモデルナ等のワクチン関連銘柄を紹介しましたが、今回から再度、製薬会社の銘柄を紹介したいと思います。ワクチンは接種率がまだまだですし、ワクチンに限らずヘルスケア関連銘柄はディフェンシブ株と言われるので、是非ポートフォリオに加えて相場の動きにも揺さぶられない安定性を取り入れたいところです。
初回はTwitter上でリクエストを頂いた、ドイツのバイオテクノロジー企業、バイオンテック(NASDAQ: BNTX)を紹介します。(プロのアナリストでは無いですが、英語力を活かして全力で銘柄分析をしますので、調べて欲しい銘柄のリクエストがあれば大歓迎です、問い合わせやTwitterからお気軽にご連絡下さい!)
では、決算書の内容についてポイントを絞って分かりやすく解説していきます。しっかり銘柄分析してみましょう!
目次
バイオンテックの企業概要、事業内容(単純事業)
公式HPより、バイオンテックは2008年に創業した企業で、ドイツのマイン(フランクフルトに近い)という都市に本社を構えます。フランクフルトには日本からの直行便があるので、アクセスはしやすいと思います。
バイオンテックが上場したのは2019年とごく最近です。
ワクチン関連銘柄を探してバイオンテックにたどり着いた方が多いかもしれませんが、元々(今でも)バイオンテックは癌の治療薬の会社です。
バイオンテック年次報告書より、バイオンテックの専門は免疫療法であり、医薬品は大きく分けて下記4種になります。
①mRNA治療学:mRNAを用いた癌治療。因みに、ワクチン開発もmRNAに関する技術が関連しています。
②細胞治療:T細胞(免疫系の細胞の一種)、細胞治療(癌の治療)に関するもの。
③抗体:癌への免疫に関する、抗体に関するもの。
④小分子免疫調節剤:固形腫瘍の治療に用いる免疫調整剤
正直、医薬品は私にとって全くの専門外ですが、バイオンテックは免疫や癌治療に特化しており、事業内容はシンプルで投資家にとって事業多角化のリスクは少ない銘柄だと言えます。
癌治療薬の市場規模(社会需要)
(出典:Fortune Business Insights)
上記はアメリカの抗がん剤の市場規模です。実際の統計データが少ないですが、今後も需要が増えていく予想になっています。癌は死因として多いですし、実際に癌患者の数は増加傾向にあるようです(参照:U.S. Department of Health & Human Services)。
喜ばしいことでは無いですが、抗がん剤の需要は強く、今後も続きそうです。
製薬の業界構造(競争要因、参入障壁)
製薬業界について5フォース分析をしてみましょう。
(出典:BizVibe)
先ず直接の競合は他の製薬会社でしょう。上記は製薬会社トップ10になります。ジョンソンエンドジョンソンがトップ、ロシェが2位、ファイザーが3位です。11位以降にも製薬会社がずらりと並ぶので、企業の数は多そうですね。従って、競合間の競争は激しいと言えます。
次は顧客との力関係です。バイオンテックの顧客は病院や薬局等、医療関係者になります。よほど特殊な医薬品であれば別ですが、基本的に医薬品メーカーはごまんといるので、お医者さんにとってみれば、バイオンテックは複数あるメーカーの1つに過ぎません。従って、バイオンテックの顧客に対する交渉力は強くないと言えます。
仕入先との力関係はどうでしょうか。バイオンテックの仕入れ先は医薬品原料メーカーになります。原料メーカーは複数あるので(参照:Pharma Manufacturing Resource Directory)、バイオンテックはどのメーカーから仕入れるかを選択できそうです。メーカー同士を戦わせて良い価格を引き出せるので、仕入先に対するバイオンテックの交渉力は強いと言えるでしょう。
代替商品の脅威について、野生動物のように病気に掛かってそのまま死ぬならともかく、人間は生きる為に病気と闘うので薬は欠かせないものですし、いくら健康に気を使っても、全く薬を使わないのはほぼ不可能でしょう。現時点では代替サービスの脅威は無さそうです。
新規参入者について、どれくらいニューカマーが多いのか、IPOの企業数が目安になりそうなので見てみましょう。2021年にIPOを予定している銘柄一覧を見ると、結構多くの医薬品会社が名を連ねています。IT(ソフト)ほどでは無いですが、医薬品は新規参入が多そうです。只、医薬品開発には莫大な開発費用が掛かりますし、研究設備も必要で、おまけに自前で製造するとなると設備投資まで必要です。医療・化学に関する高度な知識を有する人材も必要になります。人、モノ、金が必要で、他の業界と比較すると参入障壁はかなり高いと言えます。
バイオンテックの強み(商品力)
公式HPより、バイオンテックの強みは下記7つです。
①20種を超える医薬品
②癌治療の専門性
③17種もの腫瘍に対応
④10種の医薬品が11の臨床試験中
⑤7社の製薬会社パートナー
⑥1,300以上の従業員
⑦自社設備での全工程の製造能力
上記を纏めると、各癌患者に合わせた治療薬を開発できる、癌治療の高い専門性がバイオンテックの強みと言えます。
バイオンテックの株価(割安度)
(出典:yahoo!finance)
上記はバイオンテックの株価(青色)です。S&P 500(赤色)を遥かに超えて、2021年8月9日の株価は389ドルです。とんでもないパフォーマンスですね。
(出典:Reuters)
上記はバイオンテックの各株価指標ですが、まずPER(株価収益率)を見てみましょう。バイオンテックのPERは上記の「P/E Excl Extra Item (TTM)」が最新の値であり、72.75(2021年8月10日時点)になります。比較にはS&P 500のHealthcare(ヘルスケア)セクターのPERを使いましょう。HealthcareセクターのPER=26.17(参照:gurufocus)なので、バイオンテックのPERの方が高く、割高だと言えます。
次にPBR(株価純資産倍率)を見ます。バイオンテックのPBRは「Price To Book (Quarterly)」が最新の値になり、31.71です。HealthcareセクターのPBR=3.82なので、これもバイオンテックの方が高く、割高だと言えます。
バイオンテックの配当金(配当)
バイオンテックは無配当です。
無配当=お金が無いというわけでは無いので、ちゃんと収益が出ているかは財務諸表を見て判断しましょう。
バイオンテックの決算内容
バイオンテックの決算内容を一言で表すと、「コロナの脅威から世界を救うために運動成績(純利益)は度外視、出血(=投資)も構わず、株式市場からの大量輸血で血液量(=現金残高)は寧ろ増加して顔色も良くなり、見せかけではあるけれど体(=総資産額)もデカくなった」という感じです。
下記(3つのポイントの後)に財務諸表があるので、詳細を確認されたい方はそちらをご覧ください。
ポイント1
先ず注目すべきは損益計算書(Consolidated statements of operation)の営業損失(Operating loss)です。2020年はコロナワクチンによって売上(Commercial revenues)が大幅に増加しましたが、営業経費、特に研究開発費(Research and Development Expenses)が大きすぎて利益が残っていません。2020年だけ研究開発費が大きく増加していますが、BNT162(コロナワクチン)のプログラムによるものです。2021年もこの調子だとマズいですが、上記より突発的な経費であり、今後はここまで経費が大きくなることは無いと分かります。
不思議なことに、営業利益が出ていないにも関わらず純利益(Comprehensive income)が黒字になっていますが、法人税(Income taxes)が大きなプラスになっていることが謎の正体です。これは税効果会計によるもので、収益が発生しているわけではありません。
ポイント2
次に注目すべきは賃借対照表(Consolidated Statements of Financial Position)の純資産(Total equity)です。資産総額(Total equity and liabilities)が大幅に増加していますが、純資産でも特に資本余剰金(Capital reserve)が増えており、株式分割により株式市場から資金を獲得しています。利益余剰金が増えて資産総額が大きくなったわけではないので、この成長は株式市場の力を借りた、仮の成長だと言えましょう。
ポイント3
最後に注目すべきはキャッシュフロー計算書(Consolidated statement of cashflow)の投資キャッシュフロー(Net cash flows in investing activities)です。営業キャッシュフロー(Net cash flows used in operating activities)のマイナスが小さくなって良い傾向ですが、投資でドカンとお金を使ってしまっています。投資は土地や設備(Purchase of property, plant and equipments)で、年次報告書に詳細はありませんでしたが、2020年にワクチン製造ラインを獲得したというニュースがありましたし、この投資もワクチンに関するものでしょう。投資家としてはこの資金繰りは悪いと評価しますが、世界の危機の為に行ったバイオンテックの投資を、社会は高く評価するでしょう。
財務諸表
(出典:バイオンテック年次報告書)
バイオンテックは今後大きくなるか?(成長性)
バイオンテックの成長性を評価していきましょう。 損益計算書より、2020年はワクチン開発の為とはいえ、営業損失が出ています。
バイオンテック2021年第1四半期報告より、最新業績は売上が前期比約100倍(!!!)の20億ユーロ、純利益は11億ユーロでした。ワクチンの売上が伸びていますが、とんでもない成長率ですね。
次に年次報告書の賃借対照表より、資産総額の増加度合いを見ますが、既述の通り株式分割によって資本金が大幅に増加しています。キャッシュフロー計算書より、投資にがっつりお金を使ったことが分かっており、最新業績では既にその投資効果が出つつあります。
上記を纏めると、2021年に入って急激に成長していると言えます。
バイオンテックは儲かっているか?(収益性)
バイオンテックの収益性をチェックしていきましょう。
先ず売上高純利益率を計算してみましょう。損益計算書より、2020年の売上高純利益=3,829÷482,325=0.7%です。バイオンテックが含まれる「バイオテクノロジー、製薬業界」において、利益率平均は7~9%(参照:csi market)なので、バイオンテックの利益率は平均より低いです。
次にROA(総資産利益率)をチェックすると、純利益÷総資産=0.1%でした。業界平均は2~3%(参照:CSI Market)なので、こちらも平均以下です。
ROE(自己資本利益率)=純利益÷純資産=0.2%ですが、業界平均は8~14%なので、ここでも平均以下です。
上記を纏めると、バイオンテックの収益性は低いと言えます。但し、最新業績がとてつもなく良いので、最新の収益性はかなり高い筈です。
バイオンテックは倒産しないか?(安全性)
最後にバイオンテックの安全性をチェックしましょう。
賃借対照表より、短期的な資金繰りの安全性を示す流動比率=流動資産÷流動負債=275%で、100%を遥かに上回っています。
自己資本比率=純資産÷資産総額=59%と、理想の50%を上回っており、安全性は抜群です。
次にキャッシュフロー計算書から見る安全性ですが、既述の通り一番大事な営業キャッシュフローがまだマイナス、つまり本業で現金が出ていっている状況です。加えて投資キャッシュフローが大きなマイナスで、大金を使っています。したがって、財務キャッシュフロー(Net cash flows from financing activities)の大きなプラス、株式分割により莫大なお金を調達し、最終的に現金及び現金同等物残高(Cash and cash equivalents at December 31)はプラス)が大きく増えています。
上記を纏めると、バイオンテックの安全性はやや良いと言ったところです。
バイオンテックの総評
以下は私個人が行った銘柄評価で、特定の企業や従業員、株主を攻撃する目的はありません。又、各銘柄について絶対的に正しい評価を議論するものでも無い為、私個人の銘柄評価に対する非難や誹謗中傷、嫌がらせはお止め下さい。
さて、しーおががの銘柄評価基準に照らし合わせた、バイオンテックの総合評価は62点です。最新業績がとんでもないので、今年に入っての株価の伸びも納得です。コロナもそうですが、癌という需要の高い薬を取り扱っているバイオンテックの事業には今後の可能性を期待できます。
バイオンテックに投資すべきかどうか、人気が高すぎて高騰している印象なので今は「投資すべきでない」というのがしーおがが個人の判断です。間違いなく社会貢献度が高い企業なので、応援したいという意味で投資したい銘柄ではあります(もしかしたら後日少しだけ買ってるかもしれません)。
以上、バイオンテックの決算書解説でした。
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