(出典:Jing Daily)
アマゾンから初めてeコマース(通販)関連の銘柄を紹介しています。巣籠り需要に投資するのは遅すぎと感じるかもしれませんが、これから投資できる銘柄もありそうですし、コロナで通販が日常生活に定着したので、長期的に成長が期待できるテーマです。
最終回は中国のシーク―・ホールディング(NASDAQ: SECO)を紹介します。小型株になりますが、良さそうな銘柄だったので選んでみました。
では、決算書の内容についてポイントを絞って分かりやすく解説していきます。しっかり銘柄分析してみましょう!
目次
シーク―・ホールディングの企業概要、事業内容(単純事業)
シークー・ホールディング年次報告書より、中国は北京に拠点を置く、eコマースプラットフォームの企業です。
創業は2008年と企業の歴史は浅く、ナスダックに上場したのは2017年とつい最近です。
シーク―・ホールディングはオフラインのプラットフォーム(ショッピングセンター)も提供していますが、売上の主はオンライン、secoo.comです。販売商品はエルメス等の高級ブランドの鞄、宝石、服、靴等、ファッション関係です。
事業内容はeコマースに注力しているもので、シンプルなので投資家にとって事業多角化のリスクは少ない銘柄だと言えます。
eコマースの市場規模(社会需要)
(出典:statista)
上記は世界のeコマースの市場規模です。2014年から金額がどんどん伸びています。意外なのは、2020年は巣籠りで需要が爆発したかと思いきや、その伸びは例年並みでした。いずれにしても、コロナが終わるとしても今後も強い需要は続きそうです。
eコマースの業界構造(競争要因、参入障壁)
eコマース業界について5フォース分析をしてみましょう。
(出典:statista)
先ず直接の競合は、他のeコマースを提供している企業でしょう。上記は中国でeコマースを提供している企業のランキングです。タオバオ(アリババ)が1位、Tモール(これもアリババ)が2位、3位がJD.COMです。中国ではアリババが断トツのトップですね。
中国国内の需要は非常に大きいので、シェアを狙う企業は上記以外にも複数あり(参照:statista)、参加しているプレイヤーは多く、競争が激しい業界です。
次は顧客との力関係です。シーク―・ホールディングの顧客は実際に商品を買ってくれるエンドユーザーです。上記の通り、アリババグループはもちろん、JD.COMやビップショップ等、ecサイトは複数あります。シーク―・ホールディングが取り扱っている商品で、別のecサイトに全く同じ商品が安く売られていれば、エンドユーザーはそちらに流れてしまいます。従って、シーク―・ホールディングの顧客に対する交渉力は強くないと言えます。
仕入先との力関係はどうでしょうか。シーク―・ホールディングの仕入先は高級ブランドです。secoo.comを見て頂ければ分かりますが、シーク―・ホールディングが抱えるブランドは多岐に渡ります。「ルイ・ヴィトンは売れ筋だから絶対契約は続けたい」とか選り好みはあるかもしれませんが、基本的には1、2社無くなったところで大したことは無いでしょう、世界を見れば高級ブランドはごまんとあります。従って、仕入先に対するシーク―・ホールディングの交渉力は強いと言えるでしょう。
代替サービスの脅威について、DtoC、メーカーやブランドが自社のHPで販売を行うことが最大の脅威ですね。シーク―・ホールディングはオフライン販売も行っていますが、当然各ブランドは自社の店舗が中国各地にあるでしょう。ブランド品を買う方法は複数あるので、代替サービスの脅威は強いです。
新規参入者について、eコマースで有名どころの企業は何れも創業が1990~2015年です(参照:MARKINBLOG)。ここ数年ではニューカマーの数はそこまで増えてないので、新規参入の多さは中程度でしょう。eコマースを始めるにあたっては、販売等の各システムやカスタマーサポート、販売業者のサポート、ロジスティック拠点、配達網を築く必要があり、気楽にチャレンジできる業界ではありません。参入障壁は中と言ったところでしょうか。
シークー・ホールディングの強み(商品力)
シークー・ホールディングの強みは、顧客ベース、新規顧客開拓、そしてカスタマーサービスです。
顧客ベースは間違いなく都心部に住んでいる富裕層でしょう。実際、シークー・ホールディングの事務所があるのは北京、上海、深圳、香港等の大都市です。ここらへんはノウハウになるので公式HPや年次報告書には当然記載が無いのですが、創業時からブランド品を大量に買ってくれる「金持ちリスト」を育ててきたのでしょう。
上記に関連して、シーク―・ホールディングは効率的に新規顧客開拓を行っています。既に持っている顧客リストを活用して「金持ち」に共通するデータを抽出し、そのデータを基に、直接のアプローチやマーケティングによって新しいメンバーを獲得しています。営業経費はマーケティング費用が半数を占めており、マーケティングに一番力を入れていることが分かります。シークー・ホールディングの従業員も、半数が営業、新規開拓、マーケティング要員です。
既存、新規顧客を獲得したら、確り離さないように最上のカスタマーサービスで迎えます。カスタマーサービスセンターでは「執事スタイル」のサポートを用意しており、事前に顧客ニーズを確り把握した上で、商品のおススメから購入、情報収集のサポートを丁寧に行っています。
色々書きましたが、結局のところ、これまでの事業活動において育ててきた顧客リストこそがシークー・ホールディング最大の強みです。
シークー・ホールディングの株価(割安度)
(出典:yahoo!finance)
上記はシークー・ホールディングの株価チャート(青線)です。ここ5年間はずっと下降トレンドで、S&P 500(赤色)のパフォーマンスを大きく下回っています。チャートだけ見れば現在は一番株価が安いと言えます。
(出典:Reuters)
上記はアリババの各株価指標ですが、まずPER(株価収益率)を見てみましょう。シークー・ホールディングはS&P 500には入っていませんがConsumer Discretionary(一般消費財)に属する筈なので、こちらのセクターのPERと比較します。Consumer DiscretionaryセクターのPER=22.34(参照:gurufocus)なので、シークー・ホールディングのPER=34.46の方が高く、割高だと言えます。
次にPBR(株価純資産倍率)を見ます。Consumer DiscretionaryセクターのPBR=3.54なので、これはシークー・ホールディングのPBRの方が低いです。
PERは高いけどPBRは低い、この場合は純利益が大幅に減ったのか、資本金が大幅に増えたかの何れかですが、調べたところ前者(利益が大幅に減った)だったので(参照:macrotrends)、PBRを信用して割安という判断で良いでしょう。
シークー・ホールディングの配当金(配当)
シークー・ホールディングは無配当です。シークー・ホールディングはケイマン諸島の登録になっており、ケイマン諸島の法律に関連して、配当金を支払わないことにしているそうです。
シークー・ホールディングの決算内容
シークー・ホールディングの決算内容を一言で表すと、「ロボットスーツ(=負債)を着て体が大きくなったけど、成績(=利益)は昨年とほぼ変わらず、在庫が増えて出血が多くなり(=営業キャッシュフローマイナス)輸血も間に合わず体調悪化」という感じです。
ポイント1
先ず注目すべきは損益計算書(Consolidated statement of income)の営業利益(Income from operations)です。2018年には大きく増加しましたが、2019年にはほぼ同じ水準で成長が止まっています。売上(Total Revenues)は増加したのですが、営業経費がそれ以上に大きくなった為です。営業経費の増加は、特に管理部門の従業員の報酬等が増加した為だそうです。運動量(=売上)が増えましたが、無駄な動き(経費)も増えて、成績(利益)があまり変わらなかったイメージです。
ポイント2
次に注目すべきは賃借対照表(Consolidated balance sheet)の資産総額(Total assets)です。資産総額が増えていますが、流動負債(Current Liabilities)、特に未払い金(Accured expenses)が増加してます。売上=取引が多くなった分、未払い金も増えたということです。ロボットスーツ(=負債)を着て体が大きくなったように見えるイメージですね。今後の収益改善と利益の蓄積に期待したいです。
ポイント3
最後に注目すべきはキャッシュフロー計算書(Consolidated statement of cashflow)の営業キャッシュフロー(Net cash used in operating activities)です。なんと純利益(Net income)がプラスにも関わらず、営業キャッシュフローがマイナスに転じています。これは、在庫(Inventories)の増加分が非常に大きかった為です。在庫増加分は年々どんどん大きくなっているので、仕入れが多すぎると推測できます。
現金及び現金同等物残高(Cash, cash equivalents and restricted cash at the end of the year)も減っているので、仕入れの増やし過ぎで出血が多く、輸血(=借入等)が間に合っていないイメージです。
財務諸表
(出典:シークー・ホールディング年次報告書)
シーク―・ホールディングは今後大きくなるか?(成長性)
シーク―・ホールディングの成長性を評価していきましょう。 損益計算書より、2019年はメンバー数増加、各メンバーの購入量の増加により売上が伸びていますが、営業経費が増加した為に営業利益は寧ろ少し下がっています。
最新業績をチェックすると、2020年3Q(シーク―・ホールディングは3月決算で、何故か決算発表がめちゃめちゃ遅いようです)は売上が前期比29%減の13億元、営業利益は49%減の4,830万元でした(参照:シーク―・ホールディング2020年第3四半期報告)。
次に賃借対照表から資産総額の増加度合いを見ますが、既述の通り主に負債が増加しています。取引量=売上が増えたので致し方ないですが、今後利益を確り蓄えて欲しいところです。
上記を纏めると、シーク―・ホールディングの成長は頭打ちで不調と言えます。
シーク―・ホールディングは儲かっているか?(収益性)
シーク―・ホールディングの収益性をチェックしていきましょう。
先ず売上高純利益率を計算してみましょう。2019年の売上高純利益=161,671÷6,845,580=2%です。シーク―・ホールディングが含まれる「オンラインショップ業界」において、利益率平均は3~5%(参照:csi market)なので、シーク―・ホールディングの利益率は平均より低いです。
次にROA(総資産利益率)をチェックすると、純利益÷総資産=3%でした。業界平均は5~7%(参照:CSI Market)なので、こちらも平均以下です。
ROE(自己資本利益率)=純利益÷純資産=9%ですが、業界平均は22~26%なので、ここでも平均以下です。
上記を纏めると、シークー・ホールディングの収益性は低いと言えます。
シークー・ホールディングは倒産しないか?(安全性)
最後にシークー・ホールディングの安全性をチェックしましょう。
賃借対照表より、短期的な資金繰りの安全性を示す流動比率=流動資産÷流動負債=234%で、100%を遥かに上回っています。
自己資本比率=純資産÷資産総額=42%と、下限の30%を上回っており、倒産の危険は無さそうです。
次にキャッシュフロー計算書から見る安全性ですが、肝心の本業(営業キャッシュフロー)で大量出血しており、投資や財務で幾らか輸血しているが足りず、血液量(=現金及び現金同等物残高)が少し減ってしまっているイメージです。ブランドとの契約で仕入れ量を減らせない事情があるかもしれませんが、資金繰りは悪いです。
上記を纏めると、シークー・ホールディングの安全性は普通と言ったところです。
シークー・ホールディングの総評
以下は私個人が行った銘柄評価で、特定の企業や従業員、株主を攻撃する目的はありません。又、各銘柄について絶対的に正しい評価を議論するものでも無い為、私個人の銘柄評価に対する非難や誹謗中傷はお止め下さい。
さて、しーおががの銘柄評価基準に照らし合わせた、シークー・ホールディングの総合評価は55点です。 よほど富裕層をがっちり抑えているなら別ですが、「シークー・ホールディングでブランド品を買いたい!」という需要がどうもはっきり見えません。株価は安いのかもしれませんが、業績が悪いですし、回復の兆しも見えませんね。
シークー・ホールディングに投資すべきかどうか、「投資すべきでない」というのがしーおがが個人の判断です。
以上、シークー・ホールディングの決算書解説でした。
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