(出典:facebook)
さて、前回に引き続き今回もゲーム関連銘柄を紹介したいと思います。
今回紹介する銘柄はジンガ(Nasdaq: ZNGA)です。
つい先日、テイクツーがジンガを買収すると発表したことで投資家から買いが集まって株価が急上昇しました。
ゲーム界の巨人が一目置くほどの企業の実力、どんなもんでしょうか?
ではさっそくいってみましょう!
目次
ジンガの企業概要、事業内容
ジンガは2007年に創立された、比較的新しい会社です。ダブルダウン・インタラクティブと同様、Facebookでプレイできるソーシャルゲームを制作しています。
因みにですが、社名のジンガは創設者であるMark Pincusが買っている犬の名前です。だから会社ロゴも犬なんですね。
ジンガが一番最初に作ったソーシャルゲームは「ジンガ・ポーカー」、2007年のことです。「ジンガ・ポーカー」が世界で初のソーシャルゲームだそうです。
(出典:farm ville 3)
ジンガの名が世に広く知られるきっかけとなった大ヒット作品は「FarmVille」です。自分で自由に農場を作れるゲームですね。あつ森のFacebook版といった感じでしょうか。
今日、ソーシャルゲームに留まらず、特にスマホ用のゲームを中心に様々なタイトルを保有しています。日本でも有名(少なくとも私が知っている)のはトゥーン・ブラスト(パズドラの海外版)、CSR(レーシングゲーム)ですかね。
テイクツーがジンガの買収を決定したのは、テイクツーが弱いスマホゲーム方面の強化の為だと言われています。
ゲーム業界の外部環境(外部環境)
ジンガに関する深い分析の前に、ゲーム業界を取り巻く外部環境をざっくり分析します。
いくらジンガが優秀な企業でも、ゲーム業界が厳しい外部環境に曝されていると、今後の成長が難しくなってしまうからです。
政治:特になし
経済:コロナで打撃があったものの、個人消費はコロナ前の水準に戻った
社会:コロナにより家で過ごす、ゲームをするのが当たり前に
技術:クラウドゲーミング、顔認証、音声認証、ジェスチャー制御等
上記を纏めると、コロナが収束しつつあるなかで以前よりは過熱感は無くなったものの、依然としてゲームの人気は強く、ゲーム業界にとってコロナは追い風となった上に、ゲームが生活に根付いた為、コロナが終わってもそこまで外部環境は厳しくならないと考えられます。
ゲームの需要(市場)
(出典:gamesindustry.biz)
上記は世界のゲーム市場規模です。
2012年から加速度的に成長しており、今後もその勢いは止まらず、年14.5%で成長していくと予想されています。
インフレ率を考慮すると上記の成長率はかなり高めです。
しかし、市場成長率が「今までゲームに課金しなかった=>課金するようになった」と考えると、スマホでゲームをする、今まで課金したことが無い10人のうち、1人が課金すれば上記成長率は達成できるので、他の業界のように常に新規顧客を探さなければいけないことと比較すると、ゲーム業界の成長はそこまでハードルが高くないのかもしれません。
ゲーム業界の構造(業界構造)
ゲーム業界について5フォース分析をしてみましょう。
先ず直接の競合ですが、ビデオゲーム会社はアメリカだけでも2,457社あるそうです(参照:GamesBeat)、凄まじい数ですね。
顧客との力関係ですが、何千(何万?)とゲームタイトルがあるので、消費者は選び放題ですし、中毒にならない限り、「不満はいっぱいあるけど、このゲームしか選べない~」ということは無さそうです。
仕入先との力関係ですが、ゲームを作るのに仕入れは特に必要ないですね。ゲーム作製用のゲームエンジンや、ソフトウェアだけです。
代替品の脅威ですが、SNSや映画等の動画配信、ブログ等、スマホの暇つぶしは他にも色々あります。
新規参入について、例えばダブルダウン・インタラクティブがゲーム業界に参入したのは2010年と最近です。ソフトウェアエンジニアと想像力さえあればゲームを作れるので、新規参入は多そうですね。
上記を纏めると、ゲーム業界は非常に競争が激しいと言えます。ゲームタイトルがあまりにも多すぎるので、如何に差別化して顧客を確保し、課金プレイヤーを増やしていくかが重要で、ヒットするゲームを作れるセンスが問われる業界です。
競合の強さと市場シェア(シェア)
マーケットシェアに関して公開されているデータが見つかりませんでしたが、どうもジンガはソーシャルゲームではシェアトップのようです。
ジンガの後にはキング(アクティビジョン・ブリザードの子会社)、日本のDeNA、GREE、エレクトロニック・アーツが続きます。
試算では、ジンガの世界シェアは2.5%です(参照:statista)。トップ企業でもこれだけシェアが小さいので、ソーシャルゲーム業界は各社で差が殆ど無い、プレイヤー数が多い業界だと言えます。
ジンガは優位にありますが、上記の通り全く油断出来ない状況でしょう。
経営資源の強さ(経営資源)
(出典:ZIPPA)
ジンガの経営資源が優れているのか、ざっくり分析してみましょう。
人的資本:報酬を含めてジンガの魅力をアピールし、高い能力の人材を確保
物的資本:Empires & Puzzles等、継続的に収益を生み出すゲームを多数保有
財務資本:のれんを中心とした非物的資産を保有
組織資本:カリフォルニアの本社をトップに、北米、アジア、ヨーロッパに事務所を構える
他のゲーム会社同様、ジンガも人材にはこだわりを感じます。面白いゲームを作るには、センスに溢れた人材が必要なのは当然です。優れた人材の確保、維持を通して、継続的にゲームを生み出す仕組みを重視しています。
適切な経営戦略(経営戦略)
ジンガの経営戦略が上手くマッチして市場シェアの獲得に繋がっているかを分析してみましょう。
ジンガの経営戦略は集中戦略と言えるでしょう。特に大手ゲーム会社はパソコンからゲーム機、スマホまで全てのゲームに取り組んでいるなか、ジンガはソーシャルゲーム、現在はスマホ向けゲームに注力しています。
(出典:GameBeat)
スマホゲームのなかでも、プレイヤーに長年使って貰えるゲームに注力しているのがジンガの特徴的です。CSRレーシングは2012年にデビュー、Zynga pokerは2008年、FarmVilleは2009年、Words with Frinedsは2009年と、実際に長年人気のゲームが多いです。
ゲーム業界は競争が激しく、ソーシャルゲームでトップのジンガの地位も絶対では無いですが、経営資源を割り当てる対象、目指す方向を明確に絞っており、今後もシェアを拡大していく可能性は十分にあると考えます。
ジンガの決算内容
ジンガの決算内容(2020年年次報告書)を一言で表すと「各種ゲームが好調で運動量(売上)は増加したものの、体の動きに無駄(費用)が多くて今期は落第点(純損失)!でも血液を生み出す力(営業キャッシュフロー)は年々強くなって、今期は輸血(財務キャッシュフローのプラス)もして貰って、体も大きくなった(資産総額の増加)」という感じです。
2020年は買収が重なり、無形資産の減価償却が大きくなった関係で費用が増加しています。その結果、最終的には赤字となりました。
損益計算書だけを見ると赤字企業で悪い印象がありますが、キャッシュフロー計算書は打って変わって素晴らしい内容です。営業キャッシュフローは年々増加しており、今期はフリーキャッシュフロー(営業ー投資キャッシュフロー)もプラスです。財務キャッシュフローがプラスなのはちょっと不可解で、借入が増えたので賃借対照表の負債が増えています。しかし資本金も増えて自己資本比率は高いので、財務体質も問題ありません。
ジンガの利幅は大きいか?(収益性)
ジンガの収益性をチェックしていきましょう。
先ずはROEやROAといった財務指標を見ますが、ジンガは今期は赤字なので、こういった指標も全てマイナスになっています。
(出典:macrotrends)
次に利益がどれくらい高いのかが分かる指標、売上高営業利益率を見ます。 上記の通り費用が上回って赤字になっている期間が多いですが、直近の利益率は1.07%です。
過去の赤字について、2020年は既述の通り買収に関するもので、2014年は固定費が粗利を超過、2012年は研究開発費が増加した為です。
上記より、ジンガはそもそも粗利が小さく、何かがあると直ぐに赤字に転落するコスト体質であることが分かります。売上をもっと大きくしないと、安定的に黒字を出せる状態にはならないでしょう。
その点、直近では買収によって取り扱いのゲームが増え、売上も大きく伸びています。今後も今のペースで売上を増加出来れば、もう赤字に転落することは無さそうです。
さて、話しは戻ってジンガの現在の利益率ですが、ゲーム会社の平均は11.87%です(参照:csi market)。それと比較すると、やはりジンガの利益率は低いですね。
因みに、全体平均と収益性を比較してみると、S&P 500の売上高営業利益率は9.35%です(参照:csi market)。仕入れや設備が少なく済む分、やはりゲーム業界の利益率は他の業界より高めです。
上記を纏めると、ジンガの現在の収益性は低いですが、今後は改善が期待できると言えます。
ジンガは効率的にお金を回しているか?(効率性)
ジンガがお金を効率的に回しているかを調べてみましょう。
効率性は総資産回転率という指標で見ます。
財務諸表より、2019年の総資産回転率は0.36、2020年は0.31でした。
総資産回転率が低下していますが、総資産が大きくなった影響です。売上が下がっているとマズいですが、ジンガは売上が上がっているので問題ありません。買収したゲームを含めて、今後効率性を追求していけば問題無いと思います。
業界平均と比較しますと、ゲーム業界の総資産回転率は0.17~0.23です(参考:csi market)。ジンガの効率性は低下傾向ですが、まだ業界平均より高い状況です。
参考迄、S&P 500の総資産回転率の平均は0.26です(参考:csi market)。ゲーム業界はさほど資金も設備も必要ないので、総資産回転率が他の業界より高くなる傾向だと思います。
上記より、ジンガの効率性は平均より上です。
ジンガは今後大きくなるか?(成長性)
ではジンガの成長性を評価していきましょう。
(出典:macrotrends)
先ず今までの成長率を見て見ましょう。上記の通り(上が売上、下がEPS)、2014~2018年は売上が低迷していましたが、近年は年々増収傾向です。既述の通り、利益は安定しませんが改善の兆候があります。
(出典:Yahoo!finance)
上記はジンガの売上(上)とEPS(下)予想です。
2022年は売上が11.00%、EPSが20%成長する予想です。
今までの成長率を見れば、上記の売上成長率は実現可能な数字と言えるでしょう。特にスマホゲームがまだ世界人口全体に浸透していないことを考慮すれば、今後も暫くは上記の数字で成長を続けると言っても問題無いと思います。
問題はEPSです。上記の利益が実現可能かを判断するために直近の決算(2021年3Q)を見てみると、売上の増加に対して原価含めて費用が殆ど増加していないので、良い傾向だと言えます(それでも赤字になったのは不動産資産の減損処理の為)。
ジンガの成長率を平均と比較してみましょう。ゲーム業界の成長率は10.94%(参照:csi market)なので、ジンガの成長率はだいたい平均くらいということですね。
上記を纏めると、ジンガは今後も10%程度の成長を続ける可能性があるものの、成長スピードは業界平均レベルと言えます。
ジンガは倒産しないか?(安全性)
ジンガが倒産する心配の無い会社か、安全性をチェックします。
短期的な資金繰りの安全性を示す流動比率という指標は、2020年が1.40でした。基準となる1.00を上回っており、問題無いです。
資本金が占める割合を示す自己資本比率を見ると、2019年は53%、2020年は47%と、目安である30%を上回っており、良い状態です。
キャッシュフローについては既述の通り、2020年は営業キャッシュフローが大きなプラス、投資キャッシュフローが小さなマイナス、財務キャッシュフローが大きなプラスです。フリーキャッシュフロー(営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを足したもの)が大きなプラスで、確り現金を生み出している優良企業だと分かります。
上記を纏めると、ジンガの安全性は非常に高いです。
ジンガは割安か?(割安度)
ジンガが割安かどうかを判断する為に、企業価値について相対評価、絶対評価(バリュエーション)を行ってみましょう。
ジンガの相対価値評価
先ずはさくっと簡単に割安度が評価できる、相対評価を行っていきます。
株価チャート
既述の通り、ジンガは収益性悪し、成長性普通だったので、株価(パフォーマンス)はちょっと低い気がしますが、実際にはどうでしょうか?
(出典:yahoo!finance)
上記は5年間の株価チャートですが、ジンガのリターン(赤線)は145%です。
他社競合やS&P 500よりもリターンが上なので、他の銘柄と比べて投資家から非常に高く評価されていると分かります。
PER(株価収益率)
(出典:macrotrends)
上記はジンガのPER(3つのグラフの一番下)です。
PERを見れば、純利益に対してどれくらい株価が大きいのかが分かります。同じ業態の企業と比較して、PERが高ければ割高、低ければ割安です。
上記の通りジンガは赤字の期間が多いので、PERはマイナスになって評価不可です。一時期黒字に戻った時期は、PER=50~200と非常に高いです。
配当利回り
ジンガは無配当なので、配当利回りも評価不可です。
PBR(株価純資産倍率)
(出典:macrotrends)
上記はジンガのPBR(3つのグラフの一番下)です。
PBRは資本金に対して株価がどれくらい高いのかを示します。本来は時価総額=資本金になるので、PBR=1倍ですが、その企業の株券がそれ以上の価値があると投資家が判断すれば、PBRが1倍以上に大きくなります。
ジンガのPBRは年々増加傾向で、2022年1月11日現在でPBR=3.24倍です。
(参照:yahoo!finance)
上記の通り、ソーシャルゲーム各社のPBRを比較すると、日本企業を除くと、ジンガ(ZNGA)のPBRは真ん中くらいです。
日本株式市場は世界の投資家から不人気なので、PBRは総じてアメリカ企業よりはかなり低くなります。
因みにゲーム業界の平均PBRは3.73なので(参照:csi market)、やはりジンガのPBRは平均値と考えて問題無さそうです。
EV/EBITDA倍率
(参照:yahoo!finance)
最後にEV/EBITDAを見てみましょう。
この評価尺度は、企業価値(EV)に対して、利息・税金・減価償却支払い前利益(EBITDA)がどれくらい大きいかを示す指標です。キャッシュフローがどれくらい大きいかを測ることが出来ます。数値が小さければ割安、数値が大きければ割高です。
上記の通り、ジンガのEV/EBITDAが一番大きいです。
ジンガの絶対価値評価
ジンガの絶対価値、つまり理論株価を超ざっくり計算してみましょう。
先に結論を述べると、理論株価は34.01ドル、2022年1月12日現在の株価は9.15ドルと理論株価の約4分の1で、ジンガの株は非常に割安だと言えます。
さて、理論株価の計算方法ですがDCF(ディスカウントキャッシュフロー)法を用いて計算しました。 本来は過去の財務諸表から、将来の財務諸表を厳密に計算しますが、ここでは
・今後10年分のフリーキャッシュフローは、過去5年分(参照:reuters)から予想
・リスクフリーレート(リスク0の投資先の利回り)は米国10年国債の利回り(参照:marketwatch)
・ベータ(個別の株価変動リスク)はジンガの過去の株価変動から計算された数値を参照(参照:yahoofinance)
・マーケットリスクプライム(投資家が株式に期待するリターン)はS&P 500(米国大企業500社)の過去10年のリターンの平均値(参照:macrotrends)
・有利子負債資本コスト(企業が借りている借金の金利)やD/Eレシオ(負債と資本金の比率)は最新の決算書を参照
・永久成長率は米国の物価上昇率の過去データを参照(参照:trading economics)
・必要手許現預金は月商3か月分
・保有しているその他流動資産、その他固定資産等は余剰投資資産と想定
という前提でざっくり計算しました。 計算結果詳細は下記です。
結局ジンガは割安か、今後株価は上がるのか?
先ずは上記の分析結果を纏めてみましょう。
相対評価はサクッと割安度を評価できるのが便利ですが、将来の成長を考慮しておらず、あくまで現在の資本金の大きさ(PBR)や現在のキャッシュフロー(EV/EBITDA)だけを考慮しています。
他方、絶対評価は他社と比較できず、計算方法によってはエラーが大きくなるデメリットがあるものの、将来の成長性を考慮して割安度を評価できる利点があります。
つまり、2020年の成績だけを捉えればジンガは割高なものの、今後のキャッシュフローを考慮すれば割安であるという結論になります。
では、本当にキャッシュフローが今後成長するのでしょうか。
(出典:macrotrends)
上記はジンガの営業キャッシュフローです。一目瞭然で、年々営業キャッシュフローが増加しています。
今後これを継続できるかは、売上の増加を継続できるかに係っていますが、既述の通りスマホゲームの成長には今後も余地があるので、営業キャッシュフローは今後も成長を続けると予想します。
上記より、ジンガは現時点で株価が高いものの、200~300%の株価上昇余地があると考えます。
ジンガの総評
以下は純粋に株式投資判断の為だけに私個人が独断で行った銘柄評価であり、特定の企業や従業員、株主を応援したり、逆に攻撃する意図もありません。下記に対して非難や誹謗中傷、嫌がらせは止めて下さい。
さて、しーおががの銘柄評価基準に照らし合わせた総合評価は上記の通りで、投資判断は「買い」です。
競争が激しいゲーム業界ですが、ソーシャルゲームで業界トップのジンガは、買収によって着々とヒット作品を獲得し、売上をグングン伸ばしています。理論株価が高く、テイクツー・インタラクティブがこのタイミングで買収したのも納得ですし、一株9.86ドルはかなりお買い得だったんじゃないでしょうか。
以上、「買収で株価が急上昇したジンガとは何者か?ZNGAの銘柄分析」でした。
投資すべき銘柄を選ぶ方法や、銘柄の分析方法を正しく身に付けたいなら、スクールで学ぶ方法もあります。世界の著名投資家が講師を行っている投資スクール「Global Financial School」の無料セミナーを見たい方は下記からどうぞ。
「Global Financial School」の無料セミナーを受けた感想等の詳細は下記ブログ記事を参照下さい。
無料セミナーだけで株式投資の準備万全!?「投資の達人になる投資講座」を受けた感想
最後にブログランキングをポチッと押して頂けると嬉しいです!